Respiratory syncytial virus(RSウイルス)は、乳幼児、特に1歳未満の細気管支炎や肺炎を起こす頻度が最も高いウイルスです。1歳までに50~70%以上の乳児が罹患し、3歳までにすべての小児が抗体を獲得すると言われています。RSウイルスは乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50~90%に関係しており、より年長の小児においても気管支炎の10~30%に関係しているといわれます。また、年長児や成人での再感染はよく見られますが、重症となることはほとんどありません。RSウイルス感染症のピークは毎年11~1月で、3月頃まで流行が続きます。潜伏期間は2~8日間です。
◎ 症状
最初の症状は鼻汁で、少し遅れて咳が始まります。咳は発作性で嘔吐を伴う場合が多くみられます。発熱は病初期に38℃代となりますが、長期に高熱が続くことはありません。その後、呼吸にともなって喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒュー音がする)が聴かれます。症状が進行すると呼吸が早くなったり、陥没呼吸(みぞおち辺りがペコペコ凹む呼吸)がみられたり、喘鳴がさらにひどくなり、細気管支炎[1]や肺炎を合併して哺乳力が低下します。このような場合は入院治療が必要となります。生後1か月未満で感染した場合に、無呼吸が最初の症状になることがあり注意を要します。軽症では1週間位でよくなりますが、細気管支炎を合併すると3週間位かかります。
[1]細気管支炎とは、細気管支(気管支が枝分かれして細くなった部位)にRSウイルスの感染がおこると、気道内腔が狭くなったり、気道表面の粘膜から分泌物が増加して、息をする時にゼイゼイ言ったり、痰をともなった咳の原因となります。
◎ 診断
流行の時期、年齢、症状からRSウイルス感染症が疑われます。すなわち、11月~3月頃に生後1歳未満の小児が、鼻汁、咳をともなった呼吸困難があれば疑います。症状からは乳児喘息と区別がつかない場合もあります。確定診断は綿棒で鼻腔粘液を採取して、この検体からRSウイルス抗原を検出する迅速診断検査キットが発売されており、約15分で診断ができます。
◎ 治療
RSウイルスに対する特別な治療薬はありません。症状に対する治療が中心で、咳、鼻汁など上気道症状に対しては風邪薬を投与します。喘鳴など喘息症状に対しては気管支拡張剤や抗アレルギー剤(ロイコトルエン拮抗薬:オノン、キプレス、シングレアなど)内服や吸入療法があります。呼吸困難を合併した重症児にはステロイド剤の吸入や内服を行いますが、有効性に関しては一定の見解が得られていません。呼吸困難が悪化して哺乳力が低下している場合は、入院して点滴や酸素投与が必要になります。さらに重症な場合は、人工呼吸器が必要になります。
◎ 感染予防
RSウイルスの感染経路としては気道からの飛沫感染と、鼻腔や口からの分泌物に汚染された手指や物品を介した接触感染が主です。RSウイルスを家族内へ持ち込むのは、軽症の上気道炎症状をきたした幼児や学童が多く、乳児がいる家庭では厳重な手洗いが重要です。